長寿になった時、最期に何を求めるのか

 今、あなたが40代でも、50代、60代でも構いません。おそらく求めているものは、似たり寄ったりかもしれませんね。

 家族が健康で、幸せで、元気で、いじめにあったりせず、無難に勤めて、それなりに結婚して、マイホームがあって、さらには孫もできて、たまに旅行にいって、美味しいものを食べて、つつがなく今日を過ごせればよいと。

 では、そのようなあなたが最期を意識した時、人生に何を求めますか?

もくじ

朝に道を聞かば夕べに死すとも可なり

 認知症を患った母ですが、よく言葉にしていたフレーズです。

さくらの母

朝に道を聞かば夕べに死すとも可なり

 長寿になればなるほど、最期が近づきます。

 明日、亡くなるとき、年収1億円を達成したいとは思いません。

 カネは、意味を持たなくなります。

 では、長寿の人にとって、最期に何が意味を持つのでしょうか?

 それが判らないと、介護サービスで提供しているものが、なかなか的を射ないのではないでしょうか。

道とは?

 例えば、まことに僭越ではあるのですが、私の座右の銘を紹介させていただきます。

 『 人間で生まれた以上、人間以上で死ななければ意味がない。 』

 多くの人が生きている時に手にしたい幸せを掴む努力で、この言葉を具現化できるでしょうか?

 答えは、ノーです。

 例を挙げましょう。

 動物の熊は、熊なりに餌をとるなどの仕事をして子育てして生活しています。

 熊に住宅ローンは必要ないですが、人間の営みとそれほど変わりません。

 つまり、人間として生まれても、やっていることは動物と変わりないわけです。

 そのような生き方では、とてもじゃありませんが、人間以上で死ぬというのは幻想で終わります。

 では、どう生きるのが正しいのか。

 それが、道です。

 別に難しい話ではありません。

 動物は、年老いた親の介護はしません。

 ですから、人間として生まれたのですから、親が年老いたのであれば、キチンと支えてあげる。

 それだけで、人間以上なわけです。

 しかし、もっと突き詰めていけば、ロジカルな議論にさえ答えを出していけるようになります。

 仏教では、存在は苦である、と看破されています。

 では、存在、すわなち生きているのが苦であるのに、なぜ生まれたのか?

 苦であるにもかかわらず、求める幸せは成り立つのか?

 疑問が多く生まれるはずです。

 例えば、私の母は3人の子供に恵まれました。

 その3人の子供のうち、介護から逃げなかった子供は、わたし一人だけです。

 恵まれたと思っても、それは続かない。

 つまり、求める幸せなど、手にし続けられないのが現実だと理解できるわけですが、その理解が及ばないうちは、親は子供に裏切られたと嘆くわけです。

 生きるというのは、苦でしかないという現実を目の当たりにするわけです。

 私は、3人の親を介護しましたが、3人のどの親も、晩年にこの現実に直面します。

 2回目の介護となった岳父の介護でも、岳父はこの現実に直面しました。

 3回目の介護となった岳母の介護でも、同様です。

 では、どうすればこの現実を乗越えられるのでしょうか?

 その答えを、道と称しているのです。

苦しいのが当たり前

 生きるというのは、苦でしかない、その現実に自らがぶち当たらない限り、苦という言葉は多くの人が遠ざけます。

 遠ざける距離は、宇宙の果てをも超えるぐらいの勢いです。

 それだけ、人生を楽に、楽しく生きたいと願っての今日だからです。

 カネがあれば、仕事があれば、結婚できれば、子供がいれば・・・・。

 どれもが、やがてはその手から滑り落ちるものばかりなのですが、掴もうと必死になります。

 どれだけ必死になっても、掴めない。

 掴んだとしても、滑り落ちる。

 自らの肉体すら、そうなのです。

 身体の機能が、日々、劣化し、やがて止まる。

 最期を迎えていくほど、病におかされ、呼吸するのも苦しい状態に苛まれますね。

 そう苦しむ親を、傍で、看護、介護をしていればどれだけ代わってやりたいと思ったことか。

 しかし、その苦しさが、当たり前。

 この洞察を自らが果たす。

 それが、道です。

 洞察ができると、自らの肉体ですらどうにもならず、その正体は、苦で満ち満ちていると判ります。

 在宅介護の本懐は、この支援に尽きると言っても過言ではない、というのが私の考えです。

 ご長寿の方々は、本来、ここでご紹介したような内容を求めていらっしゃいます。よく考えてみてください。明日、亡くなるかもしれないのに、介護施設で塗り絵なんてしている場合ではないのです。逆に言えば、年老いた親御様を介護するという機会は、このレベルの洞察力を介護する者に与えます。それは、意味のあることではないでしょうか?

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