年齢を重ねると自分の身体さえどうにもならなくなっていきます。
街中で歩行の遅いお年寄りを見て、怪訝そうに追い抜いていく人も多くいらっしゃいますね。どうしても急がなくてはいけない事態であれば、いつもは優しく接することのできる人でも、ついイラっとするというのはあるでしょう。社会はそのようなものです。
でも、長寿の方が死が間近に迫る立場であっても、尊厳は守られないといけません。
では、皆様にお尋ねします。
いま世の中にある介護サービスで、尊厳は守られていると思いますか?
多床室のニオイ
私が30代の頃、整形外科にかかり緊急で入院した経験があります。
整形外科の病棟の入院用のベッド数が限られていたので、便宜上、内科の病棟の6名の多床室病室に入院しました。
ただ、その病室は長期療養を余儀なくされ、病状も重い方々が入室する多床室でした。
そのため、自力での排泄は出来ず、ベッド横で用を足さざるを得ない患者さん、夜中にずっとうめき声をあげ続ける患者さんといった方々しかおらず、そこに比較して若く、内臓系の疾患ではなく、痛みはあっても精神的には元気といった私が入室するわけですから、すぐに私も気持ちが滅入りました。

治るものも治らん。夜も寝れん。このニオイ中で、食事ができるわけないだろう・・・。
判りやすく言えば、トイレの中にベッドが置いてある環境で、病気を治すように頑張らないといけない状況です。
すぐに看護師長さんに、病室を変えて欲しい旨をリクエストしますが、満床で移動する場所がすぐには無いとのこと。
5日から1週間程度だったでしょうか。この耐えられないニオイの環境で入院を余儀なくされた経験があります。
この経験から、もし今後、私は入院時には個室にしようと心に決めたわけですが、幸いにも入院に至るような大病はせず、今日まで生きております。
しかしながら、このニオイを思い出さなければいけない状況を迎える時が、実母の在宅介護で生じました。
ネットでニオイは判らない
高級老人ホームを紹介するウエブサイトや広告は、煌びやかでどれだけ安心なのかと思わせるものが多いです。
それはその通りで、高級だからです。
多額の費用を支払えば、それ相応のサービスの提供があります。
例えば、サービス付き高齢者向け住宅に入居した場合、都内で食費込みで毎月40万円ぐらいはかかります。
支払えますか?
そのため、要介護度の要件が必要ですが、特養と呼ばれる高齢者施設に入居を求める方が多いです。
個室を求めれば費用がより掛かりますが、もっとも安く入居しようとすると多床室を勧められます。
4人部屋、6人部屋といったお部屋で、病院の複数人で入院するような部屋と似たような感じです。
私も、初めて在宅介護の責任を担うようになって、もし万が一、母の認知症が進んでしまい、手に負えなくなったらどうしたらよいものかと思案した頃がありました。
まだ、ネットで検索しても、介護施設にどのようなものがあるのか詳しくなかった頃です。

多床室・・・。これだとよく眠れないだろうなぁ・・・。
漠然とそんな感想をもってウエブサイトを閉じたのを覚えています。
しかし、実母の在宅介護をしているある日、どうしても母にショート・ステイをお願いしなくてはいけない事態を迎えたのですが、最悪なことにショート・ステイのサービス提供している施設がその日に限ってどこも満室だったのです。
担当のケアマネさんが一生懸命に探してくれた結果、特養のショート・ステイなら1か所、空いているとのこと。
友人の結婚式で、スピーチを頼まれており、家内と二人で夜まで参列しないといけなかったこともあり、渡りに船とばかりに特養のショート・ステイをお願いすることにしたのです。
時間も限られていたので、担当者会議や書面の取り交わしもすべてショート・ステイ当日に特養の会議室で執り行いました。
そして、その足で、母には一泊のショート・ステイをしてもらいました。
特養の施設の担当者に、一泊する母の部屋を案内されるので、私も一緒についていきます。
どんなところなのか、若干、期待する気持ちもありましたが、案内された部屋に入るやいなや、まずあのニオイ・・・。

うっ・・・、このニオイ、まさか。
そう、私がかつて入院時に経験したあのニオイと同じで、まさかの多床室で、どのベッドの横にも当然のようにポータブルトイレが置かれたままです。
そもそも、私も、母も、ショート・ステイは個室だと思い込んでいたのですが、それが間違いでした。
事前に確認すれば良かったのですが、ショート・ステイは個室だとは限りません。
最初にお高い施設でショート・ステイを経験したのがアダとなったのですが・・・。

特養のショート・ステイは着替えから始まった
母には事前にショート・ステイをお願いする理由を説明していました。
初めてのショート・ステイ経験から、母も特に嫌がることも無く、事情が事情ですから快く了解してくれました。
しかし、特養の多床室の環境に入るや否や、母の不機嫌さが伝わってきます。
その上で、もう一つ、特養の施設から申し伝えられていたこととして、着替えはあるから持参されなくて良い旨がありました。
そのため、ショート・ステイの準備も若干、楽だったのを覚えています。
何か病院の入院時に用意されるアメニティ的なものがあるのだろうと想像していました。
ところが、現実は古着でした。
おそらくは、以前に利用されていた方々が残されていった衣類の再利用でしょう。
もちろん、再利用の考えは良いと思いますが、利用者として受け入れられるか否かといえば、問題ないという人もいれば、ノーという考えの人もいらっしゃるでしょう。
私の家では、着替えを用意するのに問題は無かったですから、持参すれば良かったと後悔です。
母が、古着を好みませんから。
そして、職員の方が2~3人来て、一晩をお借りするベッドに母を座らせて、すぐにその古着へと着替えることになりました。
私は、2,3歩後ろに下がってその様子だけでなく、室内を見渡していました。
他の利用者さんのポータブルトイレの後始末をする職員さんの仕事ぶりも拝見しましたが、その方に限ったことかもしれませんが、不機嫌そうだったをよく覚えています。
かくして、特養のショート・ステイが始まったのですが、私もすぐに帰宅して結婚式に参列しなければいけません。
母からは、すでに不安の声を聞いておりましたが、1泊だけだからとお願いしますと頼み、了承してもらってショート・ステイを頑張ってもらうこととなりました。
さて、翌日になり午前中にお迎えに行くのですが、そのストーリーは後編に譲りたいと思います。
この記事では、特養のサービスが悪いかのような印象を与えるかもしれませんが、そのような意図はないことは断っておきます。そもそも、ショート・ステイとしてサービス提供してくれるので助かっているのが実際です。
とはいえ、課題や問題が無いかと言えば、それは別というのも正しい物の見方ではないでしょうか。特養に限りません。今でも、介護職員の人手不足が問題視され続けています。では、職員の人数を増やせば、介護に関わる問題は解決できるでしょうか?
例えば、多床室のニオイの問題を取り上げてみましょう。排泄を済ませるたび毎にポータブルトイレを適切に収納すれば、解決するかと言えばそうではありません。ポータブルトイレは重さもあるから、移動は重労働という側面もあります。
そもそも寝たきりとなれば、排泄の問題はついてまわります。では、問題の本質はどこにあるのか?尊厳死の導入でしょうか。私は、違うと思います。
そもそも、どうすれば認知症にならないのか、どうすれば寝たきりを避けられるのか、予防へのアプローチがまだまだ確立されていないのが課題ではないでしょうか。
そして、もうひとつ、その課題の信ぴょう性が、エビデンスを強く求められるのは当然と思うのが世間一般なのかもしれませんが、私は、必ずしもそうではなく、ご家庭で継がれてきた経験値がモノを言うのではないかな、そのように考え、アプローチを続けています。
なぜなら、暮らしそのものの質が健康を支える、この視点が蔑ろにされつつあるのが今日だという立場だからです。